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新たなメロディと共にどこへ向かう?その先に見えているものとは。ハナカタマサキ インタビュー

インタビュー・テキスト 撮影 編集
小池直也安岡佑晃YU

SNSを眺めていると、こんなにも素晴らしい音楽家が日本ローカルにいるのかと驚くことが多々ある。 依然としてメリットはあるかもしれないが、インターネットや機材が発達し安価になったことで、もはやアーティストが都市に居る必要はなくなった。ハナカタマサキの創作を観ていると、そんなことを考えさせられる。

そのメジャーな音楽シーンとは一線を画したユニークで不思議なサウンドは、これまでもネットの海をどんぶらこ、と流れてリスナーのもとへたどり着いてきた。しかし最新作『Small Melodies』では、これまでの自然派なサウンドを主体にした作風だけでなく、DAWによる打ち込みを導入、彼が大胆に変身したことを感じさせる内容となっている。これは1stアルバム『Lentment』から聴いてきた私にとって驚きだった。

ただ同時に安心をも覚えた。変化のない創作は自己模倣に陥るからだ。いつまでも“オーガニックな宅録音楽家”という枠だけに自分を収め続ける訳にはいかない。そこから彼は自然と抜け出した。 つまり、この突然でいてナチュラルな変身は、逆説的に彼が真のクリエイターであること、もしくはそれを志向している、ということの透明なエビデンスなのである。

では、その華麗なる転身をハナカタ自身から語ってもらおう。予想通り、彼の口から出てきたのは 「チームでの制作」「歌詞を大事に」「エレクトロの要素がほしい」といった、以前とは違うワードばかりだった。



小さな積み重ねと最後までやり抜く執念、未来が不安でもあきらめなかったから出会えたもの

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ハナカタマサキ 作詞・作曲、ほぼ全ての楽器の演奏、プログラミングから録音までを一人で行い、 独自のポップミュージックをつくり出す音楽家。
玩具などを使用したミニマルから、エレクトロニカ、フォーク、フルオーケストレーションまで多彩なサウンドを纏った楽曲を制作している。

――まずは『Small Melodies』の制作と素朴なタイトルについて、改めて聞かせてください。

ハナカタマサキ(以下、ハナカタ):基本的にはコツコツと録り貯めていって、気に入ったものを別フォルダに分けて温めていきました。リリースも、ある程度は計画的に進めていて、7〜8曲ほど貯まった段階でもうタイミングを考えていたんです。

タイトルはいくつか候補がありましたが、「Small Melodies(スモール・メロディーズ)」は語呂も字面もよいなと。愛着も湧いてきて、これ以外は考えられなくなってしまってたので決定しました。今でもすごく気に入っていますし、実際ワンフレーズの小さいメロディを作って、そこから展開していった曲が多かったんですよ。

制作面では、今作からはシンセやソフト音源で打ち込みも導入しています。それによって家族が寝静まってからも制作ができるようになったことは大きかったですね。音のレイヤーをより立体的に構築できるようになるのも楽しかったです。


――今まではシンセを敢えて避けていたのかと思っていたのですが。

ハナカタ:正直それもあります。これまでは実際に弾いたり、叩いたり吹いたりした音をマイクで録ってエディットするのが楽しかったんですが、段々と自分が欲する音像も変わってきました。「もっとエレクトロな要素もほしいな」とか一度使い始めたら楽しくて抜け出せなくなっちゃいました(笑) 。もっと勉強していけば、さらに楽しくなる気がしています。最初に宅録を始めた時の感覚に似ていて新鮮ですね。

――収録曲のなかで最初に作った曲は何でしたか。

ハナカタ: 「Circus」です。これもほんのりシンセが入っているんですよ。慣れてないのでビビりながら少しずつ音を足していったのを覚えています(笑)。この時はまだアルバムのことは意識していませんでした。すごく古い曲のように感じてしまいます。ちなみにバンドでみんなで演奏するのが一番難しい曲でもあります。

――個人的には5拍子が採用されているなど、1stアルバム『Lentment』みのあるサウンドだと思いました。そこが過渡期のような時期だったのかもしれません。

ハナカタ:この曲を作ったのはコロナ禍の前でしたね。それ以降はギター1本の弾き語りだけで聴かせられるような音楽を作りたくなって。歌と和音だけでしっかりと成立する、というのがひとつの基準でした。その上でこれまで使ったことのない音を重ねていこうと。

歌詞の面では、自分の中にある思いを表現したい、という気持ちがありました。ちょうど新型コロナが流行りだした時期ですね。きっかけはいくつかありますが、同時期に高知県立美術館ホールで舞台『小さな星の王子さま』の劇伴をバンドで担当したことが大きかったです。舞台の世界観を自分なりに歌に落とし込んでみた時に、改めて歌詞の可能性に気付いたんですね。自分の中にある感情を、ぎこちなくてもいいから、まずは表現してみようと思ったんです。

――なるほど。

ハナカタ:これまでは「歌詞よりもまずは音として気持ちいい」ことが最優先でしたが、ちょっとづつそこの意識は変わって来ましたね。

あと2年前くらいからBUMP OF CHICKENのライブ盤を車で聴いていて、それがすごく心地良かったんですよ。昔から好きなのですが、人恋しさを埋めてくれるようなメッセージがすごく響いて。それをずっと聴いていたから、自分もそういう表現をしたくなったのかもしれません。

――それは詞の表現としての歌なのですか、それともリスナーにメッセージを届けたいということ?

ハナカタ:「自分が思っていることを誰かに知って欲しい」という想いが強かったですね。収録曲でいうと「ヒューマノイド」や「future」、「予報」、「Zoetrope」は最初にぼんやりと「こんなことを歌いたい」という歌詞のビジョンがありました。疲弊していた時期だったので、自分自身が励まさ れたいという気持ちもあったかもしれません(笑) 。そこから音を足して構築し、最後に歌をしっかり乗せていった感じです。

あと「ヒューマノイド」、「Zoetrope」ではOnion Sky(オニオン スカイ)さんという方が歌詞を一緒につくってくれたり楽曲のアレンジも手伝ってくれました。東京に住んでいた頃のルームメイトでとにかく音楽に詳しくて、いつも一歩引いた目線からアドバイスをくれるんですよ。

誰かのアイデアがもたらしてくれる喜び

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――共作といえば、AHNAMUSICAさんと「Bird Jorge」を制作されていましたよね。

ハナカタ: 彼は当時、高知に住んでいて頻繁に情報交換したりして連絡を取っていたんです。そんな 中で「アンデスとマンドリンを入れてほしい」というオファーがあり、参加させてもらいました。 誰かと一緒に作ることで自分の別の一面を知ることができるという発見があって、この経験が チームでの制作に興味を持ったきっかけでもあります。

それと、2021年に北海道・芸森スタジオでROTH BART BARONのレコーディングを見学したのですが、そこでも衝撃を受けました。以前は三船さんが主導の宅録的なプロジェクトだと勝手に 思っていたんですが、実際はチーム全体で作り上げてて。細かいセクションにまで沢山の人の意 見や手が加えられていたんですよ。

――なるほど。段々と活動が外向きになっているのが興味深いです。「Small Melody」もYUKIさんの楽曲コンペに応募されたとか。こちらも今までになかった傾向なのかなと。

ハナカタ: そうなんです。YUKIさんの音楽が大好きで、自分がつくる曲とも少し重なる部分もあると思ってて。 自信満々で応募しましたがダメでしたね(笑)。また機会があればぜひ参加したいです。

この曲はアルバムに収録する気はなかったのですが、久々に聴き返したらすごく良いなと思って(笑)。 歌詞もすぐに出て来て音を足していったら最終的にはアルバムを象徴するサウンドになったと思っています。

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――別インタビューでは、ジェイコブ・コリアーからの影響について語っています。
彼は直感的なようでいて、理論的にかなり複雑なことを解説したり、実践していますが、どこに影響されたのでしょう?

ハナカタ: そこまで特別にジェイコブ・コリアーの音楽を追っているわけではないのですが、 「Make Me Cry」という曲がすごく好きなんですよ。展開やコード進行を自分なりに研究して置き換えて作ったのが「Holy Owl」でした。
結果、同じ雰囲気にはなりませんでしたが(笑)、すごく気に入っている1曲です。

――また昨年10月に行われたトークセッション「高知から発信する音楽表現」への参加も気になるトピックでした。

ハナカタ: あれは『Small Melodies』レコ発ライブの一環として、リリースライブの前日に行われたもので、とても楽しかったですね。主催は吉田剛治さんという、今の高知の文化シーンでは不可欠な方です。いつも相談に乗ってくれて、僕のライブも企画段階からサポートしてくれているんですよ。 こういうイベントは高知で今までありそうでなかったと思います。

トークセッションでは、山下裕矢(サンドイッチパーラー)さんというミュージシャンと、北村真実さん(こうちNPO法人おとの文化振興理事長)と一緒にお話をさせていただきました。 おふたりとも高知の音楽の今、これからの未来について深く考えていて。 隣で話を聞いててすごいなあと感心するばかりで。僕は自分の話ばかりしてしまい、なんて我欲の強い人間なんだと思ってしまいました(笑)。

高知には魅力的なミュージシャンや、ものづくりをされてる人がたくさんいます。 今回のアルバムのデザインを担当してくださったタケムラナオヤさんや、ロゴデザインをしてくださった竹花綾さんも高知在住のデザイナーさんです。 おふたりとも作れられる作品が本当に魅力的で、同じようにものを生み出す作家として背筋が伸びます。

――では最後に、高知から見た東京や都会は今どう見えているのか教えてください。

ハナカタ: こちらに住んでから自分のメロディについて、性格もあると思いますが「のんびりしているな」と感じることが増えました。実際に行くと人の多さに驚きますが、やっぱり楽しいし純粋にとても羨ましいなと感じています。
それでもせっかく自然がたくさんある場所に住んでいるので、自分というフィルターを通してここからしか生まれ得ない音楽をつくり続けていこうと思っています。

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作品情報

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ハナカタマサキ 『Small Melodies』

価格:3,300円(税別)

PENTCD-0002

  • 01. Sky
  • 02. future
  • 03. ヒューマノイド
  • 04. Small Melody
  • 05. すずめ交響曲
  • 06. 予報
  • 07. Zoetrope
  • 08. Relief
  • 09. Circus
  • 10. 車窓
  • 11. Holy Owl
  • 12. 光のなか
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